本章(第6章)のまとめとキーポイント

現代西洋医学は、近代科学の一分野として発展してきましたが、その本質は“唯物医学”です。西洋医学では、心を脳の産物ととらえ、心が脳(肉体)に影響を与えることを認めようとしません。「心(意識)と肉体(脳)の相互関係」を否定します。

20世紀の半ばに登場した心身医学は、「心と肉体」「意識と脳」の相互関連性を主張し、それまでの唯物医学に異議を唱えることになりました。1980年代には「精神神経免疫学(PNI)」が誕生し、心(ストレス)と肉体の密接な関係とそのメカニズムを医学的に証明するようになりました。これによって「心身医学」は大きな発展を遂げました。

中国「気の医学」は、気エネルギーを媒介とする心身関係を主張しています。気の医学の心身関係は、「霊的エネルギー循環システム」における「霊の心」と「肉体」を取り出して、その関係を論じたものです。その意味で気の医学の心身関係は、霊的エネルギー循環システムの一部分と言えます。

現代の心身医学は「心(意識)と肉体(脳)」の関連性を明らかにしたものの、肝心な「心とは何か?」が分かっていません。心をめぐっては、大きく2つの見解に分かれます。唯物的な「脳の産物説」と、「脳からの分離説」です。後者は、従来の宗教が主張してきた“霊魂説”にきわめて近い立場になります。科学では到底受け入れ難いものですが、一部の科学者の中からは“霊魂説”を示唆しさするような見解が示されるようになっています。

心身医学では、「心をどのように考えるのか?」について自らの立場を明確にせざるをえない状況が差し迫っています。現代医学の一分野として隷属れいぞくし続けるのか、あるいは現代医学の唯物性をきっぱりと否定し、宗教や哲学との協調路線を取りつつ新たな医学の分野を確立していくかの分岐点に立たされています。

「心とは何か?」を明らかにしようとすれば、必然的に「心」と「霊魂」の関係を明らかにしなければならなくなります。しかし宗教や哲学を含めて現在まで、それについての明瞭な定義は確立されていません。その理由は、人類の中に確たる“人間観”が存在しなかったためです。

スピリチュアリズムでは、人間には「霊の心」と「肉の心」があるとします。前者は霊的意識、後者は本能的意識ですが、地上人にはこの2つの心(意識)が1つの「心」として感じられるようになっています。

ここで重要なことは、「地上人には霊的意識のすべてが自覚されるのではない」ということです。深層心理学では、人間の意識は「潜在意識」と「顕在意識」からなることを突き止めています。スピリチュアリズムも同様の見解に立っていますが、その内容は大きく異なります。スピリチュアリズムでは、霊的意識の大部分は「潜在意識」として通常は自覚できないようになっていると考えます。その霊的意識の一部分が脳を媒介として顕在意識化されます。「顕在意識」とは、この一部分の霊的意識と脳による本能的意識を合わせたものです。

スピリチュアリズムでは、「心」と「霊」を明確に分けて考えます。心とは「霊の表現器官」であり、霊の外皮のようなもの、霊の1つの道具と見なします。

では、「霊とは何か?」ということになります。神(大霊)の分霊・内在するミニチュアの神・霊的モナド――これがスピリチュアリズムにおける“霊の定義”です。「霊」こそが、人間にとっての真の自我・本体です。

霊的エネルギー循環理論では、心の成長とは「顕在意識の中の霊的意識の拡大」のことを意味します。顕在意識中の霊的意識と本能的意識の比率は、生まれつきほぼ決定しています。この霊的意識は、育児・教育・環境・人生体験・自己の努力を通じて少しずつ拡大させることができます。

霊的意識は“利他性”を指向し、本能的意識は“利己性”を指向するため、心の成長とは「心の中の利他性を引き上げること」と言うことができます。

大半の人々の「心(顕在意識)」は、本能的意識が大きくなり、霊的意識を支配するようになっています(心の肉主霊従化)。そして心全体が“利己性”を指向するようになっています。こうした状態では心の成長はできません。霊からの「霊的エネルギー」の流入が制限されて、心はエネルギー枯渇状態に陥ってしまいます。

この段階ではまだ決定的な破綻には至っていませんが、すでに軽い心の病気(軽度の精神障害)を発症させています。

心の肉主霊従状態が続いて、エネルギー不足が深刻化すると、精神的ストレス(怒り・悲しみ・絶望・不安などのマイナスの感情)の一撃によって、心は破綻状況に陥ります。これが「心の病気の発症」です。心の病気になると、さらに重大な霊的エネルギー枯渇状態に陥ることになります。

心の病気の予防は、「心(顕在意識)を霊主肉従状態にするための努力」と「ストレス対策(ストレスをつくらないようにすること)」が中心となります。また、いったん心の病気が発症してからの治療は、「エネルギーの補充」がその本質となります。

エネルギーの枯渇とストレスの形成は、その原因をたどると患者本人の「霊的未熟性」と「性格的要因」に行き着きます。

心の病気に対して「霊的エネルギー」の補充は有効な治療法となります。「心の自然治癒力」の働きを強化・促進します。スピリット・ヒーリングは、霊的エネルギーを補充するための最高の手段です。患者の「霊」を充電し、「霊の心(霊的意識)」を活性化することができる唯一の方法です。

しかし、それが効果を発揮するかどうかは、ひとえに患者サイドのエネルギーの受け入れ条件によって決まります。

心の病気の治療は、最終的には患者本人が自らの「霊的未熟性」を克服するレベルにまで至らなければなりません。すなわち霊的成長に向けての自己努力が、心の病気の根本治療となります。その「自己努力」とは具体的には――物質中心的な考え方を「霊中心の考え方」に改め、自己中心的な生き方を「利他的な生き方」にすることです。そして「利他愛の実践・純粋な奉仕活動」を日常生活の中で心がけるということです。

心の病気(精神障害)の原因として無視できないのが、現代人の「間違った食事」による影響です。間違った食事は、時にドラッグやアルコール並みの強い影響を心に与えます。特に「低血糖症」「脳アレルギー」「必須栄養素の欠乏」「有害金属の脳内蓄積」は、精神障害と同じような症状を引き起こします。

これまで精神障害の治療では“食事”という物質次元の要因を、ほとんど無視してきました。そのため食事改善や栄養療法で治る症状に対して、的外れな“薬物治療”を行ってきた可能性があります。

心の病気の原因は多次元にわたることが多いため、治療は「休息」「薬物療法」「心理学的療法」に「スピリチュアル・ヒーリング」などを並行して進めなければなりません。そして最終的には患者本人が、霊的未熟性を克服するための「自己努力」と「利他愛の実践」にまで至らなければなりません。

心の病気治療には、常にこうしたトータル的アプローチが必要となります。