3.中国「気の医学」と心身問題
気を媒介とした心と身体の関係
ホリスティック医学の中で心身問題と言えば、真っ先に心身医学を思い浮かべますが、「中国伝統医学(気の医学)」もまた気エネルギーを媒介とする心身関係を主張しています。気の医学では、人間の感情などの心理的要因が、気の状態に大きな影響を与えるとします。激しい怒りや悲しみといった情動の偏りが、気のバランスを失わせ、身体に異常をもたらすと言います。この見解は、心が脳に影響を与えることはないとする現代の唯物医学に真っ向から対立することになります。
気の医学は、心と身体の関係を“気”というエネルギーを媒介として説明していますが、その理論の正しさは、これまでの長い歴史による治療実績によって明らかにされています。さらには現在の最新機器を用いた実験によっても確かめられています。
気の医学における心と身体の関係を整理すると、次のようになります。
「気の医学」は、心身相関医学と言えるか?
気の医学は、「心→気エネルギー→肉体」の関係を証明していますが、その反対の「肉体→気エネルギー→心」の関係についても明らかにしているでしょうか。もしそうであるなら気の医学は、正真正銘の心身相関医学ということになります。
気エネルギーは、鍼灸の治療でも明らかなように、ツボなど肉体への刺激によって変化することが確かめられています。これは肉体と気エネルギーの間に関連性があることを示していますが、それは肉体と心との関係を示しているものではありません。もし「気エネルギー→心」の関係が明らかになるなら、そのとき初めて「肉体→気エネルギー→心」の関係が証明されることになります。
しかし鍼灸などの伝統的な中国医学には、気を媒介とした「肉体→心」への関係は示されていません。気の医学には、現在の心身医学のような心理療法的内容は見当たりません。その理由として、中国医学はもっぱら患者の肉体に対する施術に意識を向けてきたために、心の正常化(治療)という方向に関心が育たなかったと考えられます。インド医学(ヨーガ)が肉体の調整レベルにとどまらず、心の悟り・救済を目的とした方向に向かったのに対し、中国医学では治療という実用的方向にのみ関心が置かれました。
しかし近年起こった「気功」では、肉体の鍛錬が心の状態に影響を与えることが強調され、ストレス症の治療法として用いられるようになっています。したがって現状では、気の医学の「肉体→気エネルギー→心」という関係が認識されつつあると言えます。伝統的な運動法である「導引術」は、内容的に気功(内気功)と大差ありません。つまり中国医学には正式な形での「肉体→心」の理論はないとしても、実質的には「心身医学」と呼ぶにふさわしい内容を持っていることになります。
「気の医学」での心身関係は、「霊的エネルギー循環理論」の一部分
気エネルギーを媒介とする「気の医学」の心身関係は、霊的エネルギー循環理論によって簡単に説明されます。霊的エネルギー循環理論に照らしてみるとき、気の医学で言う「心→肉体」の治療プロセスは、霊的エネルギー循環理論の一部分であることが明らかになります。
この図から明らかなように、気の医学には、霊体に対する認識が完全に抜け落ちています。「霊体レベル」を抜きにして、「心レベル」と「肉体レベル」に限定して考えています。気の医学の心身関係とは、霊的エネルギー循環システムの中から「心レベル」と「肉体レベル」だけを取り出して、その関係を論じたものに他なりません。
さて、心のエネルギー(マインド・エネルギー)は、実際には霊体を経て肉体にもたらされます。もし感情の乱れ(ストレス)があると、心レベルのエネルギー状態は異常になり、下位の霊体や肉体レベルのエネルギー状態は自動的に不調和・アンバランスになります。「気エネルギー」とは、肉体レベルのマグネティック・エネルギー(*霊体と肉体を橋渡しするエネルギーの一部も含めて)と考えられますから、心のエネルギー不足は当然、気エネルギー不足を招き、病気を引き起こすことになります。
このように「気の医学」の心身関係は、「霊的エネルギー循環理論」によってすべてすっきりと説明されます。気の医学の理論は、霊的エネルギー循環理論の一部分であり、その中に組み込まれるものなのです。