1.「現代西洋医学」と「ホリスティック医学」の、健康観・病気観の比較
健康と病気に対する定義の違い
唯物医学である現代西洋医学は、健康とは肉体に異常が見られない状態、病気とは肉体に異常が見られる状態と考えます。医学検査に異常がなければ健康、異常があれば病気と診断されます。患者は医師から検査値に異常がないことを知らされると、ひと安心ということになります。また患者がどれだけ不調を訴えても、検査結果に異常がないかぎり治療の必要はないと診断され、相手にされないことになります。ここに肉体だけを医学の対象とする唯物医学の健康観・病気観が端的に示されています。
こうした現代医学の健康観に従うならば、どのような人間も、健康か病気のいずれかに属することになります。「健康人」か「病人」かの2種類の人間しかいないことになります。“唯物主義”の上に立脚した健康か病気かの「二分法的健康観」――これが現代西洋医学の特徴です。
それに対してホリスティック医学は、西洋医学とは全く違った見方をします。健康と病気を対立概念としてとらえるのではなく、健康にはさまざまなレベルがあり、病気はその1つの状態にすぎないと考えます。ホリスティック医学の健康観では、人間の健康は1つの山に
上の図で山の一番ふもとが死のレベル、少し上がったところが病気のレベルです。そして山を登れば登るほど健康レベルが上昇し、山の頂上は最高の健康レベルということになります。このようにホリスティック医学では――「グラデーション的・多次元的な健康レベル」を考えるのです。
このホリスティック医学の健康観によれば、これまでの医学は、山のふもとの低いレベルだけを対象としてきたということになります。現代医学には、ホリスティック医学のような「さまざまな健康レベルがある」という視点がないために、結局、死に至らせないことがその目的となってきました。健康に注目し、健康レベルをさらに引き上げようとする方向に意識が向かっていきません。
ホリスティック医学の健康観によれば、10人の人間がいれば、10通りの健康レベルが存在することになります。健康そのものの人がいる一方で、病気とは言えないまでも、不快な症状に悩まされている人がいます。また死の間際にまで至っている人もいます。つまり、「人の数だけさまざまな健康レベルがある」ということなのです。すべての人々が、完璧な健康レベルと最低の健康レベルとの間の、どこかのレベルに属することになります。
健康観・病気観・治療観に対する基本認識の違い
現代西洋医学とホリスティック医学では、健康と病気についての定義が根本的に違っています。当然、健康観・病気観・治療観に対する見解も異なります。その違いは、次のように大きく3つにまとめられます。
①現代西洋医学の「人体機械論」と、ホリスティック医学の「人体1単位論」
これまでの西洋医学では、ある特定の臓器に病理的異常が見られると、その臓器を中心とした治療を施すことになります。異常の見られない他の臓器は正常なものとされ、治療の対象とはされません。このように西洋医学では、病気を異常の現れた臓器に限定して見ようとします。身体を単なる機械ととらえ、病気はその機械の1つの部品の異常であると考えます。現代の唯物医学では、人体を単なる部品の集合体・精密機械と見なすのです。こうした考え方が、病んだ臓器を他の部品と取り替えようとする“臓器移植”といった極端な医療にまでエスカレートさせることになっています。
それに対しホリスティック医学では、ある特定の臓器に異常が生じたならば、それは身体全体の異常が、たまたまそこに現れたものと考えます。身体の部分が病むということは、その部分の異常だけにとどまらず、本当は身体全体の異常を示していると考えるのです。ある臓器に病気が生じたならば、それは本質的には――「身体という1つの生命体の健康レベルが低下し、異常をきたしている」と見なすのです。
②現代西洋医学の「対症療法」と、ホリスティック医学の「全身根本療法」
現代西洋医学では、患者の症状だけを問題とし、それを取り除くことを治療の目的としています。身体にもともと備わっている“自然治癒力”を引き出して病気を治すという発想はありません。
一方、ホリスティック医学では“治療”とは――「身体に備わった自然治癒力をサポートする手段である」と考えます。それは自動的に、病気は自分自身で治すものであり、医者によって治してもらうものではないということを意味します。自分でつくり出した病気は、自らの努力で健康レベルをアップさせ、自然治癒力を引き出すことによって治さなければならないと考えます。医学の役割とは、自然治癒力をサポートしたり、自然治癒力の阻害要因を取り除くことなのです。
西洋医学は病気を臓器別に見て患部にアプローチする“対症療法”を中心としてきたのに対し、ホリスティック医学はどこまでも患者の身体全体を1つの単位としてとらえ、全身に対してアプローチしようとします。ホリスティック医学の観点に立てば、ガンも心臓病もアレルギーも、すべて同じ病気の中に
③病気を敵と見なす西洋医学と、病気を健康回復へのチャンスと考えるホリスティック医学
ホリスティック医学では、病気による肉体の苦しみや痛みを、これまでのライフスタイルの間違いを知らせる警報のようなものであり、健康状態を示す1つのバロメーターと考えます。そして病気を――「健康を取り戻すためのありがたいチャンス」と見なすのです。
それに対して西洋医学では、病気を“敵”と考え、何としても取り除かなければならない厄介者と見なします。この点においても、西洋医学とホリスティック医学は根本的に違っています。
人間機械論的な唯物医学のアンチテーゼとして登場したホリスティック医学の意義は、文字どおり人間の健康を、ホリスティックな観点から眺め対処するところにあります。ホリスティック医学は、唯物主義の上に立脚した「健康と病気の二分法」や「人体機械論・臓器主義」に対して、根本的な修正を迫ろうとします。
そしてこのホリスティック医学の方向性を徹底し、自然治癒力を最大限にまで引き上げようとするのが、スピリチュアル・ヒーリングに代表される「生体エネルギー医学」なのです。
3つの「生体エネルギー医学」
本章の以下においては、「スピリチュアル・ヒーリング」と「インド伝統医学」と「中国伝統医学」の健康観・病気観を見ることにします。これら3つは、生体エネルギー医学であるという点で共通します。すなわち、人間の身体に生命力を与え、生命活動の原動力となる「根源的エネルギー」の存在をいずれもが認め、「根源的エネルギーから変換した生体エネルギーが、身体をめぐって健康を維持する」というホリスティックな理論に立脚しています。
これら3つの「生体エネルギー医学」は、ホリスティック医学の重要な理念を最も明瞭な形で表しています。この点において3つの医学は、ホリスティック医学の代表と言うことができます。
本章では、この三者の比較を通して、スピリチュアル・ヒーリングの健康観がインド伝統医学・中国伝統医学の医学理論を