3.インド伝統医学の身体観

「アーユルヴェーダ」と「ヨーガ」の関係

現代のホリスティック医学の中に真っ先に位置づけされるのが、インド伝統医学です。インド伝統医学と言えば、「アーユルヴェーダ」と「ヨーガ」ということになります。アーユルヴェーダは、中国医学やイスラムのユナニとともに“世界三大伝統医学”に数えられます。アーユルヴェーダは5千年以上の古い歴史を持ち、世界各地の伝統医学は大なり小なりこのアーユルヴェーダの影響を受けていると言われています。中国の伝統医学の中にも、アーユルヴェーダの影響を受けたのではないかと思われるような内容が見られます。

では、このアーユルヴェーダにおける身体観はどのようなものなのでしょうか。インド伝統医学の身体観と言えば、誰もがチャクラやナディ・微細身などを思い浮かべます。しかし、これらの言葉はアーユルヴェーダのものではありません。不思議に思われるかもしれませんが、実はこれらはヨーガ(タントラ・ヨーガ)の用語なのです。伝統的なアーユルヴェーダの資料には、こうした用語はほとんど登場しません。

アーユルヴェーダとヨーガを漠然と同じもののように思っている人が多いのですが、これらの間には理論的な関連性はありません(注2)。ヨーガ(タントラ・ヨーガ)には明確な霊的身体観がありますが、アーユルヴェーダにはありません。時にアーユルヴェーダの文献の中にチャクラなどに関する記載が見られることがありますが、それはあくまでもヨーガから借用したものなのです。

そもそもアーユルヴェーダとヨーガでは、何よりもその目的とするところが異なっています。ヨーガの目的は魂の向上であり、悟りであり、輪廻からの解脱げだつです。ヨーガとは、一言で言えば純粋な宗教なのです。一方、アーユルヴェーダの目的は健康を得ることに置かれ、その本質は健康法であり医学と言えます。本来のアーユルヴェーダには、ヨーガのような修行によって魂を高めるといった内容はほとんど見当たりません。

本書ではたびたび「インド伝統医学」という言葉を用いていますが、断りがないかぎりヨーガのことを指しています。インド伝統医学の中で霊的な問題を取り上げるについては、必然的にヨーガに視点を合わせざるをえなくなります。なおアーユルヴェーダについては、本書の第4章でも取り上げています。

ヨーガの身体観

世界の多くの伝統医学がそうであるように、ヨーガでも人体を「小宇宙」と考えています。そのヨーガは、人体を「粗大身(gross body)」「微細身(subtle body)」「原因身(causal body)」の3つの身体から成り立つものと考えています。目に見える肉体は、粗い物質からできているという意味で「粗大身」と呼ばれます。その粗大身を支え、エネルギーを供給しているのが「微細身」です。身体を構成する要素があまりにも微細で目には見えないという意味を持っています。そして、これら粗大身・微細身を大きく包むように存在しているのが「原因身」です。

ヨーガでは、死によって粗大身が捨て去られて微細身と原因身になり、さらにはやがて微細身も脱ぎ捨てられて最終的には「原因身」だけになって宇宙に帰っていくとされています。このようにヨーガでは、肉体とは別の2つの不可視の身体の存在を認めています。微細身にはナディやチャクラといったエネルギーの通路や器官があるとされます。これらの霊的器官については、次の章(第3章)で取り上げます。

ヨーガにおける微細身・原因身という不可視の身体は、スピリチュアル・ヒーリングにおける「霊体」とほぼ同じような身体を意味していると考えられます。ただしスピリチュアル・ヒーリングでは1つの霊体だけがあるとしていますが、ヨーガではそれが2つあるという点で異なっています。

ヨーガの身体観