1.シャーマニズムによる霊的医術

シャーマニズム医術と霊魂観

病気の治療が「スピリチュアルなるもの」と密接な関係を持つものとして真っ先に考えられるのが、原始社会におけるシャーマニズム医術と、近代におけるスピリチュアル・ヒーリングです。近代に起こったスピリチュアル・ヒーリングは、現代版のシャーマニズム医術と言えます。

最近のシャーマニズム研究の進歩は目覚ましく、数十年前には考えられなかったような多くの知見が明らかにされています。一般的にはシャーマニズムは、超自然的な存在(霊魂や精霊)との交流・交信を可能とするシャーマンという人物によって営まれる宗教形態であり、太古の原始社会に存在した最も根源的で原始的な自然宗教と見なされています。こうしたシャーマニズムに対し、キリスト教などの世界的教理宗教のサイドからは、次元の低い未開民族の宗教として軽蔑の視線が向けられてきました。しかしそうした見方は、シャーマニズムの本質を理解しないところでの一面的なものです。

シャーマニズムは、科学技術の進歩した現代の先進諸国にも存在しています。日本のシャーマンと言えば、東北地方のイタコやゴミソ、沖縄のユタがよく知られていますが、田舎に行けば現在でも多くのシャーマンと出会うことができます。日本のシャーマンは、霊媒として霊界にいる先祖の声を子孫に伝えたり、心霊治療師として病気癒しに携わっています。

シャーマンは、病気の癒しを1つの役割としていますが、彼らの病気観・治療観には、霊的なるものが一貫して見られます。シャーマニズムは明確な「霊魂観」に立った宗教と言えます。太古の人々は、人間は死ねば霊魂として存在し続け、死者の霊魂は、霊媒を通じて地上世界と接触・交流を持つことができると信じていました。病気は、肉体を持たない霊魂の憑依ひょういや、あるいは霊気(霊的エネルギー)の欠乏が原因となって引き起こされると考えられていました。そして呪術じゅじゅつや祈祷などの手段によって悪霊が取り除かれると、病気が治ると信じられてきたのです。

日本のシャーマニズム医術の現状

こうしたシャーマニズム医術は、現代医学の立場からは到底受け入れられるものではありません。しかしそれにもかかわらず、現代医学から見放された多くの患者がシャーマンのもとに足を運び、治療を受けるといったことがひんぱんに見られます。しかも、そうしたシャーマニズムの治療によって、奇跡とも言えるような治癒がたびたび引き起こされます。

日本にはこうしたシャーマンによる治療を容認する土壌が、伝統的に根強く存在しています。日本人は太古の昔より現在に至るまで“シャーマニズム”を信仰してきたと言うと、おそらく、大半の日本人は仏教徒か神道イストではないかと反論することでしょう。たしかに日本人の多くは仏教徒に属しますが、実は日本の仏教は、シャカによって説かれた仏教ではありません。インドで発生した仏教は、インドから中国・朝鮮を経て日本に伝来する過程で、東北アジアのシャーマニズムの影響を受け、本質的な変身を遂げています。シャカは死後の霊魂の存在を認めませんでしたが、そのシャカの教えは、東北アジアの“先祖霊崇拝”というシャーマニズムによって180度別物につくり替えられてしまったのです。そして先祖崇拝を中心とする新しい仏教、シャーマニズム化された仏教が日本に伝わり、日本人の宗教となったのです。

日本にもともと存在していたシャーマニズムと、シャーマニズム化された仏教という宗教的背景があって、日本人は歴史的に死後の霊魂の存在を当然のものとして受け入れてきました。それが現代にまで日本人の中に引き継がれてきたのです。そして現在でも、かつてのシャーマンたちと同じような悪霊払い日本ではこれを“浄霊”とか“除霊”と呼ぶことが多い)をする新興宗教が成立し、多くの信者を集めることになっています。こうした事情は、日本以外の東北アジアの各国でも共通して見られます。

太古の人類に発したシャーマニズム医術は、現代社会にも脈々と受け継がれていますが、そうしたシャーマニズム医術は、現代人の知性に応えるだけの十分な理論体系・知的体系を備えていません。そのため、どうしても現代社会では表立って自らの立場を主張することができなくなり、社会の片隅に追いやられることになってしまいました。現代社会の中で、シャーマニズムは正式な市民権を持つことができずにいます。