2.ホリスティック医学の本質と特徴
ホリスティック医学の本質
人間を「霊を含めたトータル的存在」と見なすこと
現在のホリスティック医学関係者の多くは、“自然治癒力”という身体に備わった生命力が病気を癒すという治療の観点からホリスティック医学を考えようとしています。確かに自然治癒力を重要視した治療観は、現代西洋医学に根本的に欠けていたものであり、その点にホリスティック医学の大きな特徴があると言えます。
しかしホリスティック医学が目指すものは、それだけにとどまりません。ホリスティック医学におけるさらなる本質的な特徴とは、「反唯物主義的」という点に求められるべきなのです。なぜならこれこそが、現代西洋医学とホリスティック医学の根本的違いであるからです。
現在流行しているさまざまな民間療法の中には、自然治癒力に基づく治療観を持っていながら、依然として唯物主義的な領域にとどまっているものがあります。しかし、それでは単なる現代西洋医学の延長と言うべきものであって、本当のホリスティック医学とは言えません。ホリスティック医学とは、文字どおり人間を、ホリスティック(全体的・総合的)にとらえることを最大の特質とするからです。全体的・総合的な人間観を出発点とするのがホリスティック医学であり、人間を「霊・意識・身体」の総体、「霊性・精神性・身体性」からなる
したがってホリスティック医学の根本理念は、まず「身体観」に求められなければなりません。「霊」を含めた総合的な身体観こそが、ホリスティック医学の出発点でなければなりません。そうした出発点それ自体が、「人間は単なる物質ではない」というアンチ唯物主義の強力な主張となっているのです。“自然治癒力”を重視した治療は、確かにこれまでの西洋医学に比べれば大きな進歩と言えます。しかし、それだけで良しとするならば、依然として唯物医学の領域にとどまることになってしまいます。
ホリスティック医学は、どこまでも人間を「霊を含めたトータル的存在」と見なす医学なのです。このホリスティック医学の定義を満たさない治療は、たとえホリスティック医学の名称で呼ばれていたとしても、本当のホリスティック医学とは言えないことになります。あるいはホリスティック医学の一部分にすぎないということになります。
3レベルのホリスティック性
ホリスティック医学が、現時点において明確な理論モデルをつくることができないのは、医学の対象である人間の身体が、そもそもどのような構成であるのかが分かっていないからです。共通の身体観・人間観が確立されていないのです。現在ホリスティック医療を
要するにホリスティック医学と言っても、「ホリスティック性とは何か?」が明らかにされていないのです。特に人間の身体構造における霊的要素についての見解が大きく分かれたままなのです。「ホリスティック医学」を旗揚げしたものの、その“ホリスティック”の意味するものが明確でなく、共通概念(コンセンサス)が確立されていないのです。ホリスティック医学の対象とするものが各自それぞれであり、統一がとれていないのです。この点が、現在のホリスティック医学が直面している最大の課題であり問題点です。
身体の構成要素をどのように考えるかによって、さまざまなホリスティック性のレベルが存在することになります。
この図は、3レベルのホリスティック性を示しています。人間を「霊・精神(心)・肉体」の3次元にわたる存在と考えるなら、左の図のようなホリスティック性が成立します。伝統医学や宗教医学などは、こうした立場に近いと言えます。スケールの点に限って見れば、これが最も広範囲のホリスティック性のレベルということになります。
次に人間を「精神(心)と肉体」の2要素にわたる存在と考えるなら、真ん中の図のようなホリスティック性が成立します。心身医学や多くの民間療法などはこれに該当します。
さらに人間を肉体だけの存在と考えるなら、肉体次元に限定されたホリスティック性が成立します。右の図がこのケースです。ハーブ療法や手技療法などの代替医療は、肉体次元でのホリスティック医学ということになります。(*現代西洋医学は、肉体次元での“反ホリスティック医学”と言えます。)
真のホリスティック医学とは?
真のホリスティック医学とは――「霊・精神・肉体」の三位一体の身体観に立ったものです。こうしたホリスティック・レベルにまで至らないかぎり、本当のホリスティック医学とは言えません。真のホリスティック医学は、「霊」を含めた3次元のホリスティックな身体観の上でのみ成立するものなのです。
本当のホリスティック医学の本質を、別の言葉で言い表すならば――「霊的要素を取り入れたところに成立する医学」ということになります。現代西洋医学の最大の特徴は“唯物主義”です。真のホリスティック医学は、医学に霊的な要素を導入することによって、従来の唯物医学に真正面から挑戦します。医学の中で、霊魂・霊といった宗教のテーマを論じるようなことは従来タブーとされてきましたが、ホリスティック医学は、そうした宗教のテーマを医学の核心部に持ち込もうとしているのです。
代替医学と統合医学とホリスティック医学の関係
最近では、「ホリスティック医学」「代替医学」「CAM」「統合医学」といった言葉が聞かれるようになってきました。これらは新しい医学の動きを示す言葉ですが、人によって少しずつその意味するところが違っていたり、矛盾することがあります。
「ホリスティック医学」はすでに述べたように、現代西洋医学の考え方(身体観・健康観・病気観・治療観)に対立する形で登場することになりました。ホリスティック医学は、現代西洋医学のアンチテーゼとして20世紀に現れたのです。ホリスティック医学の“ホリスティック”という言葉は、従来の西洋医学の唯物主義・分析主義・人体機械論を激しく非難する意味合いを持っています。ホリスティック医学は、西洋医学の基本理念とは全く逆に、精神や心の存在を医学の中に取り込み、人体を全体的・総合的に見ようとします。こうした点でホリスティック医学は、本質的に西洋医学と対立関係にあります。
一方「代替医学」とは、通常の医学(現代西洋医学)でない医学の総称です。代替医学には、伝統医学や民間療法などが含まれます。代替医学はホリスティック医学と多くの部分で共通性を持つ(*健康観や治療観が一致するものがある)ため、しばしば同一の意味で使われることがありますが、厳密には全く異なる概念です。
ホリスティック医学が現代西洋医学と対立関係にあるのに対して、代替医学(Alternative Medicine)は必ずしも対立関係にあるわけではありません。最近では代替医学は、現代医学の欠点や不足分を補う医学という意味で「補完(相補)代替医学(Complementary Alternative Medicine /CAM )」と呼ばれるようになってきました。
さらには現代西洋医学の長所と、代替医学(CAM)の長所を積極的に統合して、より総合的な医学を目指そうとの動きも現れるようになってきました。これが「統合医学(Integrative Medicine)」です。この統合医学は一見すると最も理に適った医学のように感じられますが、現実には多くの問題を内蔵させたままであり、必ずしも理想的医学とは言えません。どれほど多くの種類の医療を寄せ集めても、医学的な質が向上するとは限らないからです。
代替医学は、ホリスティック医学に至る1つのプロセスであり、過渡的医学にすぎません。ホリスティック医学には、常に“アンチ唯物主義”という強烈な主張がともなっていなければなりません。「霊」を含めたトータル的身体観に立っているかどうかにおいて、ホリスティック医学と他の代替医学は区別されます。先に述べたように“自然治癒力”に基づく治療を重視したからといって、それだけでホリスティック医学にはなり得ません。その意味で、現在ホリスティック医学と自称している多くの治療法は、実際には代替医学ということになります。
現代栄養学(分子矯正医学)やハーブ療法についても、こうしたことが当てはまります。現代栄養学が単なる肉体だけを対象とした治療レベルにとどまるとするなら、それはこれまでの化学薬物を、栄養素という別の物質に置き換えただけのものにすぎないことになってしまいます。もちろん栄養素と化学薬品とでは、薬としての性質が根本的に異なっていますし、治療法としても単なる対症療法とホリスティックな機能性向上療法といった大きな違いはあります。しかしそれだけでは、依然として単なる唯物医学の延長にとどまることになってしまうのです。その他の各種民間療法やカイロプラクティックなども、代替医療にはなり得ても真のホリスティック医学となれるかどうか疑問視されるところです。
現時点でホリスティック医学としての特徴を最も示しているのは、「心身相関医学」と「インド伝統医学」と「中国伝統医学」ということになるでしょう。これらは心的要素・精神的要素、さらには霊的要素の重要性を全面的に打ち出すことによって、従来の医学の唯物主義的パラダイムに最も対立しているからです。