1.現代西洋医学とホリスティック医学の登場

現代西洋医学の隆盛と代替医療の復活

デカルト哲学に端を発した近代科学は、19~20世紀に隆盛を極めることになりました。現代西洋医学は近代科学の一分野として、医学の中心的地位を確立しました。日本では明治維新(1867年)以前には漢方医学が主流の座を占めていましたが、文明開化とともに西洋医学が急速に導入されるようになったのです。そして西洋医学は、それまでの漢方医学を駆逐し、またたく間に日本国内における医学の支配的な立場を確立しました。日本ではつい最近まで、多くの人々が漢方医学は時代遅れの医学と考えてきました。

こうして現代西洋医学は、20世紀には現代先進諸国で圧倒的な支配力を持ちましたが、同じ20世紀の後半には、その内部に存在するさまざまな問題点・矛盾点が指摘されるようになってきました。それにともない、これまで西洋医学によって片隅に追いやられてきた種々の民間療法や伝統医学が、「代替医療」として再び人々の注目を集めるようになりました。

現代西洋医学の本質は“唯物主義”

現代西洋医学の一番の本質は“唯物主義”であるということです。現代西洋医学が抱える問題点・矛盾点のほとんどは、それが唯物主義の上に立脚しているということに由来します。西洋医学は、唯物主義的身体観・唯物主義的健康観・唯物主義的治療観を特徴とします。そこでは人間の身体は、多くの部品からなる精密機械として考えられ、心や意識は、脳という物質の単なる副産物と見なされることになります。

ホリスティック医学の登場

そうした唯物主義的な現代西洋医学は、20世紀の後半における「ホリスティック医学」の出現によって、根本からの見直し・修正を迫られるようになりました。人間の身体を単なる物質と考え、心の存在を脳の産物として軽視していた現代西洋医学の在り方に対して、ホリスティック医学は全面的に挑戦状をたたきつけたのです。ホリスティック医学は、それまで軽視されてきた「心の存在の問題」を、医学の中心的な部分に持ち込もうとしています。ホリスティック医学は、人間は肉体という物質だけでなく、心と身体という要素からなる存在であり、しかもその心は身体に大きな影響を及ぼすことができると主張します。

またホリスティック医学は、心の存在の重要性ばかりでなく、肉体を生命体ならしめる「生命力」や「霊」といった問題を、新たに医学の中に持ち込むことになりました。生命とか霊といったテーマは、これまではもっぱら宗教や哲学が扱うものとされてきましたが、ホリスティック医学は、それを重要な理念として医学の中に持ち込もうとしているのです。

このようにホリスティック医学は、従来の現代西洋医学の唯物主義的理念に対して、真正面から異議を唱えることになりました。現代西洋医学に対するアンチテーゼとして登場したホリスティック医学は、現代西洋医学の“唯物主義”という根本的な理念を打ち砕き、「心や精神」、さらには「霊」といったこれまではタブーとされてきたところにまで医学の対象を広げようとしています。