1.現代の精神医学と統合失調症

100人に1人の、頻度ひんどの高い精神病

統合失調症(精神分裂症)は世界各国で、ほぼ100人に1人の割合で発症しているかなりありふれた精神病です。世界人口65億とするなら、全世界で6千万人以上の人々が、この病気で苦しんでいることになります。統合失調症の症状は“気が狂った”という言葉で表現されるように独特なもので、誰もが簡単に見分けることができます。精神医学が歴史的にその対象としてきた最大の病気が、統合失調症であったことは言うまでもありません。

統合失調症の患者は、周りに人がいないのに誰かの声が聞こえたり(幻聴)、何かが見えたり(幻視)、常識では考えられないような妄想にとらわれておびえたりします。また、ぶつぶつと独り言を言ったり(対話性幻聴)することもあります。さらには何日も寝ずに、激しく動き回ったりするようなこともあります。しかし患者本人には、自分がおかしくなっているという自覚がないのが普通です。

精神病院への入院

統合失調症を発症すると大抵の場合、家族や周りの人々の手には負えなくなって、最後には精神病院に入院させるということになります。少し前まで、この精神病院での患者の扱いをめぐって人権問題として議論されたこともありました。

しかし発狂状態に陥って、生命の危険に直面している統合失調症の患者を前にしたとき、唯一頼りとなるのは病院だけでした。鉄格子のはめられた病棟に患者を強制的に収容することは、家族にとっては心の痛むことですが、仕方がなかったのです。実際こうした強制的入院によって、患者の自殺を防いだり、患者に振り回されて家族全体が破綻する最悪の事態を防いできたのです。

統合失調症と脳機能の障害

最近になって、統合失調症の患者の脳には“ドーパミン”という脳内物質が過剰になっていることが明らかにされるようになりました。現在使われている統合失調症の治療薬は、このドーパミンの働きを妨げることを目的としています。この薬品によって、実際に幻聴などの幻覚や妄想が減少したり消滅するようになります。

このため現代医学の中では、統合失調症はドーパミンなどの脳内物質のアンバランスによって引き起こされる病気であると、単純に解釈するような医者が現れることになりました。その結果、現在では“統合失調症は脳の異常による病気である”との見解が優勢になりつつあります。

薬物療法の効果は朗報だが、決定打ではない

たしかに“薬物療法”の発展によって、統合失調症の治療は大きく前進しました。現在では統合失調症は、初期段階に薬物治療を開始すれば、数カ月で完治することも珍しくなくなりました。ある研究者によれば、現在の薬物療法によって2~3割の患者は完全に回復することができるということです。また統合失調症の急性期の興奮状態も、薬物療法によって相当な部分までコントロールすることが可能であると言われています。昔は強制的に入院させるしか方法がなかった病気も、現在では通院治療によって一応の回復状態にまでこぎ着けることができるようなケースも増えてきました。それは患者を抱える家族にとって、たいへんな朗報です。一言で言うならば、統合失調症は昔と比べると、かなり治る病気になってきたということです。

しかし薬物療法の治療効果が目覚しいと言っても、それですべての問題が解決したわけではありません。薬物療法は、どこまでも単なる“対症療法”にすぎません。異常な症状を抑えたり解消させることを目的としたものであって、病気そのものを治療することはできません。幻覚や妄想という症状がなくなっても、患者は依然として異常を抱えたままなのです。無気力症状・不適応症状などは引き続き見られ、決して完治したとは言えません。多くの患者が急性期の症状を薬物で克服した後も、異常を引きずっています。薬物療法によって統合失調症は完全に治るようになったとは言えないのが実情なのです。

本当の原因は、いまだに分からない

ここ20年くらいの間に、統合失調症の治療は過去と比べ急激に進展しました。しかし統合失調症の原因については、いまだに謎に包まれたままです。最近では患者の脳の画像診断法が開発され、統合失調症患者の脳機能の異常についての研究が進んでいます。それによれば、統合失調症では脳の広い範囲(前頭葉・側頭葉・基底核・大脳辺縁系)で機能の障害が発生していることが明らかにされています。脳の働きに異常が生じていることが、はっきりとしたのです。しかしその一方で、患者は決して人間性を失っていないし、生活能力の多くをそのまま維持しています。

こうした広い範囲で脳の障害が生じる理由は、依然不明のままです。研究者によってさまざまな仮説が出され、原因の究明が進められていますが、たしかなことは分かっていません。

統合失調症の患者の脳では“ドーパミン”などの神経伝達物質が過剰になっていることまでは分かっていますが、それをもって直ちに“統合失調症は脳のドーパミン過剰症”とは断言できません。そもそもドーパミンの過剰が、脳の異常そのものの実態なのか統合失調症を引き起こす直接的原因物質なのか)、あるいは別の異常が脳に反映した結果なのか、あるいは別に生じた異常を修復させようとする働きの結果なのかが明確ではないからです。

現在までに分かっていることは、統合失調症の患者は「脳のさまざまな部分を結ぶ統合機能が失われている」、そして「ドーパミンに代表される脳内物質がそれに関係している」ということだけなのです。どうしてそうした障害が出るのか、その原因についてはいまだに解明されていません。

霊・霊の心・霊体という、霊的要素を無視した統合失調症の解明は不可能

人間は単なる(脳を含む)肉体という物質からなる存在ではなく、霊・霊の心・霊体という霊的要素を持った存在である以上、それらを無視して統合失調症の根本解明は不可能です。肉体以外の霊的要素を認めない現代医学の立場では、どうしてもその原因を物質レベルに求めようとします。目に見えない霊の存在を頭から否定して、そこから一歩も出ようとしません。

しかし統合失調症は、単に“脳”という物質レベルでの異常ではありません。統合失調症の原因は「霊的レベル」にあります。スピリチュアル・ヒーリングの立場からの結論を述べるならば、統合失調症の患者の脳に見られる異常は、霊的レベルの異常の反映にすぎないのです。

医者の中には、宗教で行われているおはらいなどによって、軽い統合失調症が治ることを認めている人もいます。ただしそうした治癒は、暗示の作用やプラシーボの作用によって引き起こされると考えるのです。しかし統合失調症の治癒は、暗示やプラシーボといった心理的な要因によるものばかりではありません。

スピリチュアル・ヒーリングでは、統合失調症の原因を「霊の憑依」と考えています。実はそうしたとらえ方は、古代から多くの宗教によって言われてきたことと同じなのです。スピリチュアル・ヒーリングでは、そのメカニズムについて論理的に説明しています。本書では、「霊の憑依によって統合失調症が引き起こされる」という見解を前提として話を進めていきます。

霊の存在も霊の憑依も全く認めない現代医学と、霊の存在を大前提として考え治療に当たろうとするスピリチュアル・ヒーリングでは、その立場はあまりにも大きく隔たっています。見解の違いは、対極的であると言っても過言ではありません。さらに霊の存在に対して本来ならば好意的であるはずのホリスティック医学も、霊の憑依という見解を受け入れようとしません。そうした事情を知ったうえで、本章では「統合失調症」について論じていくことにします。

最終的に問題となるのは――「実際に霊が存在するのかどうか?」「霊の憑依現象なるものがあるのかどうか?」そして「憑依を解くことによって統合失調症が本当に治るようになるのかどうか?」という事実だけなのです。霊についての現代医学の否定的な見解は、決して根拠のあるものではありません。霊的なことは“ただ自分たちの唯物医学の領域に属さない”というだけのことなのです。現代医学もそうした意味では、ある種の信仰(唯物主義信仰)に陥っているということになります。

統合失調症という特殊な病気の根本原因を解明しそれを治療するためには、最終的に医学が大きく譲歩して、自らの見解を変える必要があります。医学と宗教が同じ立場に立たないかぎり解決できないのが、統合失調症の問題なのです。その意味で、現代医学にとっては、自らの考えの大枠を乗り越えられるかどうかが問われることになるでしょう。