4.インド伝統医学の健康観・病気観

「チャクラ」と「ナディ」によるエネルギー循環システム

本書の第2章ですでに述べたように、ヨーガでは、人体は不可視の身体(原因身・微細身)と肉体(粗大身)から構成されていると考えます。また「チャクラ」という霊的な中枢器官があって、そこから宇宙に充満する「プラーナ」というエネルギーを取り入れているとします。そのプラーナエネルギーは「ナディ」という通路を経て身体の隅々にまで分配され、それによって生命活動を維持することが可能になると考えます。

チャクラは3つの身体のセンターでもあり、原因身と微細身と肉体をそれぞれつないでいると言われます。

「チャクラ」と「ナディ」によるエネルギー循環システム

チャクラは、外界からプラーナを取り入れ、各身体にエネルギーを分配すると同時に、各身体のプラーナを相互に移動させます。例えば、微細身のプラーナを物質次元のエネルギーに転換して肉体に生命力を与え、それと同時に、肉体のエネルギーを霊的エネルギーに転換して微細身へ与えます。このように「チャクラ」を介して、霊的エネルギーと物質エネルギーの転換が行われます(図のa)。

以上のようなプロセスを経て、エネルギーは3つのすべての身体をめぐることになります。これは明らかな「霊的エネルギー循環理論」と言えます。

ヨーガの健康と病気の定義

ヨーガでは、このエネルギーシステムが正常に働くとき、健康が維持されると考えます。つまり病気とは、エネルギーの循環がスムーズに行われないために生じる肉体の異常ということになります。このようにヨーガの健康観は、プラーナという霊的エネルギーの循環理論に基づくホリスティックなものとなっています。

霊的エネルギーの循環によって健康と病気をホリスティックに論じることは、スピリチュアル・ヒーリングと全く同じです。しかもヨーガでは、肉体ばかりでなく霊的身体を含めた広範な霊的エネルギー循環を考えています。こうした点から見るとヨーガは、すべてのホリスティック医学や代替医学の中でスピリチュアル・ヒーリングに最も近い立場にあると言えます。

スピリチュアル・ヒーリングとヨーガの「エネルギー循環理論」の違い

とは言うものの、スピリチュアル・ヒーリングとヨーガの「エネルギー循環理論」では、内容的に一致しない部分もあります。スピリチュアル・ヒーリングでは、宇宙に遍在する霊的エネルギーは「霊」から取り入れられるとしますが、ヨーガでは、プラーナは「チャクラ」から取り入れられるとしています。この点において両者の見解は異なります。

次にスピリチュアル・ヒーリングでは、取り入れられた霊的エネルギーはステップダウンして最下層の肉体に至るとしますが、ヨーガでは、取り入れられたエネルギー(プラーナ)はチャクラからそれぞれの身体のナディを経て行きわたるとしています。この点においても両者の見解は異なります。

また、ヨーガでは霊的身体は2つあるとしていますが、スピリチュアル・ヒーリングでは霊的身体は1つだけとしています。1つの霊的身体があり、それが霊的進化に応じてグラデーション的に変化すると考えます。明らかにスピリチュアル・ヒーリングの見解の方に合理性があります。もし霊的身体が1つしかないということになれば、ヨーガのエネルギー循環理論は、全体的に修正を余儀なくされることになります。1つの霊体と1つの肉体があるということになれば、チャクラについての見解も、大幅に修正しなければならなくなります。

スピリチュアル・ヒーリングから見ると、ヨーガにおける最も重要な概念である「チャクラ」に対する認識を改める必要性があります。結論を言えば、ヨーガで言うような霊的中枢器官としてのチャクラは存在しません。

では、スピリチュアル・ヒーリングの立場からすると、ヨーガで言う「チャクラ」はどのように説明されるのでしょうか。次にそれを見ることにします。

スピリチュアリズムによる「チャクラ」の見解

「チャクラ」は架空の霊的器官

①独立した霊的器官としてのチャクラは存在しない

スピリチュアル・ヒーリングの身体観の中には、チャクラは存在しません。ヨーガで言うような霊的中枢器官としての独立器官を認めません。もちろんスピリチュアリストの中には、古代インド思想や神智学の影響を受け、いまだにチャクラの存在を信じる者もいますが、スピリチュアリズムの権威ある資料の中には、死後の人間の霊体にチャクラなる霊的器官を認めているようなものはありません。

これはスピリチュアリズムの立場からすれば、チャクラという霊的器官はもともと存在しないか、あるいは別の働きを間違って認識し、それを霊的器官と錯覚したと考えられます。ヨーガ、神智学、バイブレーショナル・メディスン、また多くの神秘主義者やニューエイジャーによって無条件に信じられている「チャクラ」の存在を、スピリチュアリズムは認めない点でこれらとは一線を画しています。

②チャクラとは、霊体と肉体の接点のこと

では、スピリチュアリズムの中には、チャクラに近いようなもの、あるいはチャクラを連想させるようなものは全く存在しないのでしょうか。実は信憑性しんぴょうせいの高いスピリチュアリズム関連の資料の中に、第3の目とか太陽神経叢といった表現が見受けられます。そこでは――「第3の目や太陽神経叢から、ヒーラーのエネルギーが患者の体内に流れ込む」といった表現が使われています。第3の目とか太陽神経叢は、位置的には「チャクラ」と一致しています。

しかし、スピリチュアル・ヒーリングにおけるこの表現は、ヨーガで言うような独立した霊的中枢を意味しているわけではありません。これは霊体と肉体という「異質の2つの身体の接点・接触点」を指しているにすぎません。世の中にはチャクラを透視することができると言う霊能者がいますが、不思議なことにチャクラの数が、透視者によって3つであったり4つであったり、7つであったりします。こうしたチャクラの数についての不確かさは、チャクラが独立した霊的器官ではないことを物語っています。チャクラは独立した霊的器官ではなく単なる霊体と肉体の接点であるため、透視する人によってさまざまに映ることになるのです。

この接点を通じて、霊体から肉体に霊的エネルギーがもたらされ、反対にそこで肉体エネルギーが霊的エネルギーに転換され霊体に入っていきます。神智学やヨーガで描かれるチャクラの図は、この接点におけるエネルギーの出入りの状態を地上サイドから見たものなのです。霊体から肉体に向けて霊的エネルギーが噴出しているように見えるのを、独立した霊的器官と見間違えたのです。

③「チャクラの覚醒」による霊的能力開発の意味するもの

人によっては、霊体から接点を通って大量の霊的エネルギーが肉体に流入することがあります。これをヨーガでは、「チャクラの覚醒」「チャクラの目覚め」と説明します。その状態を霊的視力を持った者が透視すると、チャクラから多くの光が吹き出し、まるでチャクラという1つの器官が活発に活動しているように見えるからです。

大量の霊的エネルギーが肉体に流入してくるとき、すなわちチャクラが覚醒したときは、霊体に備わっている能力(霊的視力・霊的聴力・霊的コミュニケーション能力など)が肉体次元に発現するようになります。これが、「チャクラの覚醒による超能力の開発」と言われるものの実態です。

ヨーガの一派(クンダリニー・ヨーガ)では、特殊な方法でチャクラを目覚めさせ、超能力を開発し悟りを開くことができるとします。これが多くの現代人の興味を刺激し、無意味な超能力開発ブームを引き起こしました。スピリチュアル・ヒーリングでは、チャクラ覚醒という不自然な方法で超能力を開発することには賛成しません。超能力は霊性の進化にともない、自然な形で発現するのが正しい在り方であると考えるからです。

チャクラの覚醒

チャクラの覚醒―1

チャクラの覚醒―2

④「チャクラ」と「シルバーコード」の共通性

睡眠中や臨死体験中には霊体は肉体から分離しますが、その際「シルバーコード」と呼ばれる幽質の紐(コード)が霊体と肉体を結びつけています。そのシルバーコードは普通、2つの太いコードと、多数の細いコードから成り立っています。分離した霊体と肉体は、シルバーコードによってエネルギーの交流をします。

霊体と肉体の間には、接着剤のような半物質の「結合体(中間体)」があることを先に述べましたが、言うまでもなく「接点」は、この中間体上に存在することになります。またシルバーコードは、中間体をつくる接着剤状の半物質からでき上がっています。中間体にある接点と、シルバーコードの位置は一致します。これは霊体と肉体が分離した際には、接点の部分がシルバーコードになることを示しています。

「チャクラ」と「シルバーコード」の共通性

半物質の「結合体(中間体)

幽質の紐(シルバーコード)

「ナディ」も架空の霊的器官

またチャクラと並んで、ヨーガにおけるもう1つの重要な概念は「ナディ」です。これについてはチャクラ以上に諸説入り乱れています。ある教典ではその数7万2千と言っているかと思えば、別の教典では35万本もあるとしています。霊的身体のエネルギーの通路は、肉体における神経などとは異なり、何本あるというような物的な表現で言い表すことはできません。それを敢えて表現しようとしたために、こうした混乱が生じるようになったものと思われます。

霊体内部のエネルギーの循環は、肉体内の通路(経絡や神経など)のような器官を経てなされるものではありません。ナディという通路が実際にあるわけではなく、“エネルギーの瞬間的な拡散”というような形で、エネルギーは霊体内部を満たすことになります。

結局、ナディもチャクラと同様、実在しない架空の霊的器官ということになります。ただヨーガで無数にあるとされるナディも主要なものは14本と言われ、この点については、中国の伝統医学の経絡との関連性を感じさせます。

チャクラやナディを中心とするヨーガの「エネルギー循環理論」は、スピリチュアル・ヒーリングとは必ずしも一致しないことが明らかになりました。

しかし肉体以外の霊的身体の存在を認め、根源的な霊的エネルギーが循環することによって健康が維持されるとする「霊的エネルギー循環理論」の見解は、スピリチュアル・ヒーリングと基本的には一致しています。エネルギー循環理論に基づく健康観は代替医学の中に数多く見られますが、その中でヨーガの健康論は、スピリチュアル・ヒーリングに最も近いと言えます。