2.近代スピリチュアル・ヒーリングの登場

スピリチュアル・ヒーリングの登場

聖書の中には、イエスが手を触れただけで長患ながわずらいの病人がたちどころに治ったという奇跡が数多く書かれています。この記述が事実であるとするなら、イエスは2千年前の偉大なシャーマニズム医術師であったと言うことができます。

さて、そうしたシャーマニズム医術とは別に、近代の先進諸国から新たに登場してきたのが「スピリチュアル・ヒーリング」です。スピリチュアル・ヒーリングは、“スピリチュアリズム”という19世紀に起こった霊性復興運動の一部として展開したものです。そこでは原始宗教であるシャーマニズムとは異なり、現代人の知性に応じた説明の努力がなされています。スピリチュアル・ヒーリングは、見方によっては、シャーマニズム医術が現代社会に洗練された形態をとって再登場したものと言うことができます。

スピリチュアル・ヒーリングの中には、あまりにもセンセーショナルな治療で世界中に知られることになったブラジルやフィリピンの“心霊手術”も含まれます(注1)。こうした心霊手術の背景には“スピリティズム”があることが知られています。スピリティズムは、スピリチュアリズムが英語圏を中心に普及したのに対して、フランスから始まり、ラテン諸国に広まった霊性復興運動です。スピリチュアリズムもスピリティズムも呼称こそ異なりますが、内容的には全く同じ霊性復興運動、同じひとつの霊的運動と見なすことができます。

イギリスで市民権を獲得したスピリチュアル・ヒーリング

従来のシャーマニズムは何の理論的・知性的基盤も持たなかったために、現代社会では片隅的存在に追いやられることになってしまいましたが、近代スピリチュアル・ヒーリングでは知性的な説明の試みが行われてきました。現在、スピリチュアル・ヒーリングが最も進んでいるのはイギリスです。イギリスのスピリチュアル・ヒーリングは、これまで現代医学に対して検証のための積極的な働きかけをしてきました。そうした努力の積み重ねがあって、徐々に社会に認知されるようになってきたのです(注2)

現在イギリスでは、西洋医学の現場でも、多くの医師たちがスピリチュアル・ヒーリングを採用するようになっています。医師自身がスピリチュアル・ヒーリングをマスターしたり、ヒーラーたちと協力して治療に当たっています。イギリスで一番大きなスピリチュアル・ヒーリングの団体はNFSH(英国スピリチュアルヒーラー連盟)で、そこではホリスティック医学の一環として、患者の求めに応じてスピリチュアル・ヒーリングが行われています。イギリスでは、スピリチュアル・ヒーリングはホリスティック医学の一分野として認知され、一定の地位を占めるようになっています。

こうしたイギリスの事情と比較すると、日本やアメリカは大きく後れを取っていると言えます。

代表的なスピリチュアル・ヒーラー

イギリスのスピリチュアル・ヒーリングの歴史の中で、最も著名な人物は「ハリー・エドワーズ」です。彼はNFSHの創設者でもあり、スピリチュアル・ヒーリングに関する何冊かの著書もあります(注3)。スピリチュアル・ヒーリングがイギリス国内で市民権を得るについては、彼の存在が大きかったと言われています。ハリー・エドワーズのスピリチュアル・ヒーリングは、目覚ましい治療実績を上げたことで知られています。しかもその大半が、現代医学によって治療不可能とされた難病の患者であったことを考えると、まさに“奇跡のヒーラー”と称賛されたのが大袈裟おおげさでなかったことが分かります(注4)

本書はそのハリー・エドワーズによる見解を参考にして、スピリチュアル・ヒーリングの理論化を図っています。

また、ハリー・エドワーズと同じくスピリチュアル・ヒーリングの立場に立ちながらも、全く違った形式のスピリチュアル・ヒーリングを展開した米国人医師、カール・A・ウィックランドにも注目する必要があります。ウィックランドのスピリチュアル・ヒーリングは、主として精神病患者に対する治療ですが、その治療形式は日本の宗教における浄霊や除霊に酷似こくじしています(注5)。ウィックランドのスピリチュアル・ヒーリングも、現代スピリチュアル・ヒーリングの1つとして無視することはできません。

ハリー・エドワーズやウィックランド以外にも、現代のスピリチュアル・ヒーリングを代表する多くのヒーラーたちがいます。